東京高等裁判所 昭和43年(ウ)1016号 決定 1968年10月28日
申立人(債務者) 沼田源吉
被申立人(債権者) 佐藤キヨ
主文
本件申立を棄却する。
理由
申立人は、「申立人及び被申立人間の頭書事件の判決正本につき東京高等裁判所書記官貝塚正己が家屋明渡部分に付与した執行文はこれを取消す、」との決定及び右裁判前の仮処分として、右判決の執行力ある正本に基づき昭和四十三年十月二十一日申立人に対してなした強制執行はこれを許さないとの裁判を求める旨の申立をなし、その理由は別紙記載のとおりである。
審案するに、控訴棄却の判決とは、第一審判決主文の内容と控訴審判決の主文の内容とが一致する場合(第一審判決が相当である場合)において第一審判決を肯認し、これを強調するものに外ならない。そして控訴棄却の主文に付せられた仮執行の宣言は第二審の判決をその確定前に執行することを可能ならしめる、いわゆる広義の執行力を有せしめることとなる(これを比喩的に仮確定の状態におくと説くものもあるが、その趣旨は兎もあれ、仮確定なる用語は、不適当である。確定前に執行できる効力を与えるというのが正しい用語であろう)結果、第一審判決が間接的に執行できる(恰も第二審判決の確定により第一審判決が執行できると同様の状態)こととなるので、第二審の書記官は民事訴訟法第五百十六条第二項の規定に基き債務名義となる第一審判決に執行文を付与すべきものである。これを本件についてみるに控訴棄却の判決と共になした仮執行の宣言は、控訴審判決確定前において第一審判決主文の内容(金員支払部分のみならず、本件家屋の明渡部分)につき広義の執行力を得さしめる趣旨であること明白であるから右裁判所書記官が、原判決主文第二項(家屋明渡部分)につき執行文を付与したことは相当であり、何等形式的要件の欠陥は認められない。
よつて本件申立は理由がないのでこれを棄却し、主文のとおり決定する。
(裁判官 毛利野富治郎 石田哲一 加藤隆司)
(別紙)
事実及び理由
一、被申立人は、申立人に対し家屋明渡の強制執行として東京地方裁判所昭和二九年(ワ)第六二五〇号同年(ワ)第七五六〇号事件及び東京高等裁判所昭和三六年(ネ)第一、八八六号事件の判決正本にもとづいて昭和四三年一〇月二一日申立人居住の家屋につき強制執行をなしその一部六畳一間について明渡をした。
二、ところで右各事件の判決は、家屋明渡部分については未だ執行力を生じないものである。即ち一審判決主文によれば(但し物件目録を除く)「原告(反訴被告)の請求を棄却する。反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し別紙第一目録記載の建物を明渡せ。反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し金一二九〇〇円及び昭和二八年六月一日以降右建物明渡済にいたるまで一ケ月金二二、〇〇〇円の割合による金員を支払え。(中略)この判決は第三、第四境に限り………(略)………仮に執行することができる」とあつて家屋明渡部分については仮執行の宣言はなされなかつたのである。しかして申立人は直ちに右判決に対し控訴の申立をなし差戻しの後の御庁昭和三六年(ネ)第一、八八六号事件の判決主文によれば「本件控訴を棄却する。………中略………。訴訟費用(差戻前の当審及び上告審の訴訟費用も含む)は控訴人の負担とする。本判決は仮に執行することができる」とあり、御庁判決によつても一審判決について全部に仮執行の宣言はつけなかつたのである。そもそも負訴の当事者が控訴を申立てた場合にこの控訴を棄却するときに一審判決全部(一審判決に仮執行宣言が付されていない場合)に仮執行を付する際は「この判決並びに第一審判決につき被控訴人勝訴の部分は仮りに執行することができる」として初めて一審判決に仮執行が付かない部分につき強制執行ができるのである。ところが御庁裁判所書記官は被控訴人代理人の求めに応じこの点を考慮せず漫然執行文を付与したのであり、いまだ執行力を生じていない部分につきなした違法のものであるから、申立趣旨のとおりの裁判を求めるものである。
三、尚被申立人は右誤つた執行文により申立人に対し一部の強制執行をなし更にこれを続行する虞があるので下命の保証を立てますから強制執行停止の仮の処分の発令を求めるものである。